2010年3月10日水曜日

「ノンフィクション」に「フィクション」をコラージュすること

船戸与一 著『満州国演義』に思うこと。

著者・船戸さんも度々訪れる、とある荻窪の居酒屋の女将から推奨され、本作品・1~5巻までを読んだ。
40年以上船戸さんを知る女将が初めて褒めた作品だそうである。
嘗て、ゴルゴ13の脚本なども手掛けた著者は、好奇心を擽る数々の『フィクションの世界』を描かれた。

船戸さんの作品は、限りなく「ノンフィクション」に近い舞台を創作されたとしても、それは「フィクション」の世界であった。

しかし本作は、日本人であれば小学生でも知りうる『ノンフィクションの世界』(満州事変)に『フィクションの世界』(敷島4兄弟)をコラージュ(糊付け)したものである。
しかも、『ノンフィクションとして登場する歴史上実在した人物』は、作中、台詞を発しない。
ストーリーを創るのは、コラージュされた『フィクション・敷島4兄弟 およびそれを取り巻く人々』である。
多くの歴史小説が、『ノンフィクション』である歴史上の人物に語らせるなかで、本作は、歴史の中に、『フィクション』である架空の人物をコラージュし、語らせ、歴史を躍動させる。
この構成が何より面白い!  
そして、(4巻に詳細があるが)『国民』が存在しなかった『満州国』という『国家』が、何故、存在しえるのか。この問に対する答えを、本作は読者に語る。
官僚(長男)・馬賊(次男)・軍人(三男)・アナーキスト(四男)という立場を異にする、敷島4兄弟が、『満州国』を巡って、『追従』(長男)、『無関心』(次男)、『肯定』(三男)、『否定』(四男)という4機軸でストーリーを展開する。
それは、肯定・否定・昇華という弁証法的アプローチで『満州国』を描き、読者に『満州国』の存在感をよりリアルに感じさせる。
本作品はまだまだ続く。異なる4機軸・敷島4兄弟が『風車』のように回転しながら、『ノンフィクション』の世界を駈け巡る。
この『風車』の中心は何か。それは、今後の作品進行のなかで明らかにされるであろう。
満州国の存在に対して、肯定・否定を繰り返す中で、『昇華』される『真理』は何か。

世界史の中でも、「国民が存在しなかった国」というのは非常に珍しいのではないだろうか。(満州国・国民と言うものは存在しなかった。)
こうした歴史のエポックに目を着け、その「存在意義」を、「フィクション」である敷島4兄弟に語らせる。
「フィクション」を「ノンフィクション」にコラージュする。
あぁ~、なんて斬新で新鮮な試みなのであろうか。
新たなテーストの歴史小説を発見した喜びに、小生は浸っている。
あぁ~、早く、6巻を読みたいものだ。


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