2010年8月23日月曜日

スパイ映画を語る。②映画『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』 を鑑賞して・・・。

 スパイ映画・『007』も好いけれど、実話をもとに製作された「スパイ映画」は、アクションシーンこそありませんが、フィクションの世界とは異なる面白さを我々に提供してくれるものです。さて、「スパイ映画」を素材にした「酒の肴」・二品目です。

先ごろ、アメリカでロシアのスパイが大量摘発され、ロシアが押さえていた旧西側スパイと交換されるという事件が起きました。まるで古いサスペンス映画を倉庫から引っ張り出して見せられているようで、まあ驚きで文字通り世界の注目を集めました。摘発されたスパイたちが、いかなる「情念」のもとに、どんな「獲物」と「成果」を上げていたのか、まだよくわからないそうです。ただ、市民生活にとけ込んだ暮らしぶりや経歴を見ると、ヒットエンドランのような短期の工作員ではないのでありましょう。

 昨今は、今回紹介する「フェアウェル」の時代のような、世界大戦につながりかねないような緊迫感はありませんが、家庭人を装いながら(いや、実際に家庭人だったのでしょう。)、任務に忠実であろうとした「21世紀のロシアのスパイたち」の心の風景は、どんなものだったのでしょうか。美人がいたからというわけではなく、これは将来必ず味のある映画になると小生は思うのです。特に、これから紹介する映画『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』を鑑賞した後には・・・。

「真実」であるが故に、迫り来るものを感じます。「真実」であるが故に、主人公となるスパイたちの人間味に酔いしれ、彼らに哀愁を感じるのです。そして、「世界外交陰謀の恐ろしさ」も味わうことになります。

(映画『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』)

 20世紀最大のスパイ事件のひとつと言われる「フェアウェル事件」、それは1980年代初頭ブレジネフ政権下のソ連で起りました。KGBのグリゴリエフ大佐(実名:ウラジミール・ヴェトロフ)が、自らが所属するKGBの諜報活動に関する極秘情報を、当時、東西冷戦時代の敵陣営であるフランスに受け渡したのです。しかもこの超大物スパイが提供した莫大な資料には、ソ連が長年調べ上げたアメリカの軍事機密や西側諸国に潜むソ連側のスパイリストなどが含まれ、まさに世界のパワー・バランスを一変させかねないほどの破壊力を秘めたトップシークレットでありました。だから、一般人は、この事件についてそれほど知りえないのです。グリゴリエフのコードネーム「フェアウェル(いざ、さらば)」を冠して「フェアウェル事件」と呼ばれるこの史上空前のスパイ事件は、実際に当時のソ連を震撼させ、アフガニスタン侵攻の失敗とともに、のちの共産主義体制崩壊の大きな切っ掛けになりました。

 なぜ、スパイ・「フェアウェル」は祖国を裏切るという死と背中合わせのリスクを冒したのでしょう。「世界を変えてみせる。祖国・ソ連のために、そして現在の自分を“国家の犬”と批判する次世代を生きる息子のために・・・」という思いが、彼を駆り立てたのです。

事実は小説よりも奇なりであります。今回紹介する作品・フランス映画『フェアウェル/さらば、哀しみのスパイ』は、そんな時、東西冷戦構造崩壊につながったともいわれる、実際の大型スパイ事件をドラマにした作品です。ジェームズ・ボンドのような秘密工作員が大活躍する? ノーであります。祖国と家族を愛し、よれよれに疲れ、しかし、一筋の希望を捨てなかった中年男・KGBのグリゴリエフ大佐(実名:ウラジミール・ヴェトロフ)が世界を動かしたのです。

 舞台は1980年代初め、ブレジネフ体制末期のソ連。

 すべてに行き詰まった祖国に絶望し、再生のためには体制を崩壊させ、新たな革命を経るしかない。こう決意したKGB(ソ連国家保安委員会)のグリゴリエフ大佐は、フランス人技師ピエールを通じ、機密情報を西へ流し始める。まず、西側のトップシークレットがソ連に漏れているという事実と証拠。そして、ついには西側で活動しているソ連のスパイたちの所在も知らせます。

 米国のホワイトハウスやCIAのトップは、ソ連への情報漏えいの実態を知ってがく然とする一方、大佐の情報でスパイを大量摘発し、ソ連の海外諜報(ちょうほう)活動網を壊滅状況に追い込みます。しかし、国家や国際パワーゲームの当事者である為政者たちには、自分たちが利用するスパイの個人的な思いなどどうでもよく、まして彼らの友情や家族愛など想像さえしなかったでありましょう。しかし、この作品は彼らの友情や家族愛などを見事に描いたのであります。

初めは素っ気なかったが、次第に友情を深めるグリゴリエフ大佐とピエールが、この映画の主人公です。この大佐は実名ウラジミール・ヴェトロフ、事件当初53歳でした。スパイ史であるJ・T・リチェルソン著「トップシークレット」(太陽出版)によると、ヴェトロフはKGBで科学技術のスパイを担当する第1総局のT局幹部となっております。60年代にフランスのパリに駐在した経歴があり、その時知り合った実業家を通じ、手紙でフランスの防諜機関DSTに接触、情報提供を申し出ます。DSTはヴェトロフに英語で「フェアウェル(いざ、さらば)」という暗号名を与えます。

 グリゴリエフ大佐から提供される情報によって、科学や技術に関しソ連が西側から収集していた膨大な情報が分かり、設計書や解析がおびただしく開示されていきます。西側で活動する「ラインX」という大量のKGB要員のリストも明らかになります。勝負あった、である。

 「フェアウェル」の活動は長くは続きませんでしたが、その効果は決定的だったのです。もちろん、グリゴリエフ大佐彼の命運は波乱万丈です。詳細は、どうぞ劇場で・・・。

映画では、グリゴリエフ(ヴェトロフ)大佐と、情報受け取り役のピエールの次第に深まる友情と、双方の家庭内の亀裂、愛憎があざなえる縄のように描かれます。

 大佐は1955年に大学を出た、理工系であります。そのころ、ソ連は宇宙ロケット開発競争で米国をリードし、スプートニクの打ち上げ成功が世界を驚かせました。有人衛星もソ連が初めて成功させました。そのころを誇らしげに大佐が回想するシーンがあります。印象深いシーンです。ソ連にも栄光の時があったのです。 だが、80年代。その栄光は薄れ、情報を盗むことでしか西側との科学競争についていけない国の実態に大佐は絶望します。

一人息子は遠い西側の自由にあこがれ、手に入れたロックバンド「クイーン」の音楽テープに夢中となります。この子の時代には新しい国に、と大佐はひそかに願います。発覚、破局の時がくる。大佐から情報を受け取っていたフランス技師・ピエールは妻子を車に乗せて雪の道を必死に疾走し、国外脱出を図ります。そして、仰天すべき事実を知ることになります。そこにはむき出しの国家のエゴ、裏にうごめくスパイの素顔があったのです。

「世界を変えてみせる。祖国・ソ連のために、そして現在の自分を“国家の犬”と批判する次世代を生きる息子のために・・・」という信念が、ひとりのスパイを創り上げたのです。しかし、「ソ連のため・・・」を世に問うには時期尚早でありました。なにしろ、ブレジネフ政権下です。真実を知るまでは、大佐の家族は、「大佐は国家の犬」、という認識さえ持っていました。「国家の犬」が「ソ連を変える」という信念を持ってスパイ行為をしていたのですから、事実は小説よりも奇なりであります。

スパイ映画でありますが、それはそれは上質なハードボイルド作品であります。どうぞ、グリゴリエフ(ヴェトロフ)大佐とピエールの友情に酔いしれて下さい。そして、先ごろ、アメリカで摘発された「ロシアのスパイ」、彼ら彼女らの思いを想像してみて下さい。上質なハードボイルドが創造できませんか・・・・。

ジェームズ・ボンドのような秘密工作員が大活躍する? ノーであります。

でも、「スパイ映画」、面白いですぞぉ~。

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