2010年8月11日水曜日

 『夢の中の夢の中の夢』で繰り広げられるアクションサスペンス、もう最高!(映画 『インセプション』に乾杯!)

 「バッドマン」を変革した、あのクリスファー・ノーランが、やってくれました。誰も思いつかないであろうストーリー展開を秘めたサイコサスペンス、その名も『INCEPTION(“植えつける”と言う意味)』。

昨今は、そのほとんどが「原作アリ」というなかで、この作品『インセプション』はノーランの完全オリジナル脚本です。この物語、要するに大企業のトップ・サイトー(渡辺謙、演ずる)が、ライバル会社の社長息子を陥れてライバル会社を解体させる、というごくごく平凡なストーリーです。

では、何が「やってくれました、クリストファー・ノーラン!」なのでしょうか?それは、直ちに映画館へ行ってこの作品をご覧になれば判ります。それでは皆さん、映画館でお会いしましょう・・・、と言いたいところですが、それでは何だか判らないと思いますので、以下、熱く語りましょう。

まず、どこが「誰も思いつかない奇想天外なストーリー」なのでしょうか?それは、「サイトーがライバル会社の社長息子を陥れる手段」が斬新なのです。陥れるために用いられる手段は、なんと「夢」です。

しかも、「夢」は、陥れられるロバート(ライバル会社の社長息子)と、陥れる産業スパイ集団(ディカプリオ演ずるコブを中心とする“栄光のビッグ・ファイブ”)達とで共有されなければならない。普通、「夢」を用いて産業スパイ活動を行うというのは、「エクストラクション(作品表題のインセプションの対義語)」と解釈され、これは他人の頭の中に侵入して、カタチになる前のアイディアを盗むことなのです。しかし、今回の場合、用いられる手法は「インセプション」。それは、陥れるターゲットの意識下に「あるアイディア(この場合、会社が破滅するアイディア)」を植えつける行為なのです。

大物実業家・サイトーが雇い入れた、「産業スパイ集団」のメンバーと役割は以下の通りです。

1. 抜き取り屋のチームリーダー・コブ。

2. 複数の人間が夢の異なる状態をシェアできる薬を調合する調合師・ユスフ。

3. 夢の世界に侵入し、様々な人物に姿を変えてターゲットを翻弄する偽造師・イームス。

4. ターゲットが現実だと騙される世界を頭の中に創る設計士・アリアドネ(チーム唯一の女性)。

5. コブの心強い相棒。綿密に任務を進め、平静なポイントマン・アーサー。

具体的にストーリーを紹介しましょう。〈ネタバレ、注意!〉

主人公のドム・コブは、人の夢(潜在意識)に入り込むことでアイディアを“盗み取る”特殊な企業スパイ。 そんな彼に、強大な権力を持つ大企業のトップのサイトーが仕事を依頼してきた。依頼内容はライバル会社の解体と、会社解体を社長の息子ロバートにさせるようアイディアを“植えつける(インセプション)”ことだった。極めて困難かつ危険な内容に一度は断るものの、妻殺害の容疑をかけられ子供に会えずにいるコブは、犯罪歴の抹消を条件に仕事を引き受けた。

古くからコブと共に仕事をしてきた相棒のアーサー、夢の世界を構築する「設計士」のアリアドネ、他人になりすましターゲットの思考を誘導する「偽装師」のイームス、夢の世界を安定させる鎮静剤を作る「調合師」のユスフをメンバーに加えた6人(依頼人のサイトーも含む)で作戦を決行。首尾よくロバートの夢の中に潜入したコブ達だったが、直後に手練の兵士たちによって襲撃を受けてしまう。これはロバートが企業スパイに備えて潜在意識の防護訓練を受けており、護衛部隊を夢の中に投影させていた為であった。インセプション成功の為に更に深い階層の夢へと侵入していくコブたち。次々と襲い来るロバートの護衛部隊に加え、コブの罪悪感から生み出されたモル(=コブの妻)までもが妨害を始めた。さらに曖昧になる夢と現実の狭間、迫り来るタイムリミット、果たしてインセプションは成功するのか・・・、となるのです。

しかも、数学的にストーリーを面白くしているのは、この「夢」が「3層構造」になっているということ。

少々解説しますと、以下のようになります。しっかり話しに付いて来て下さい。

まず、「夢の世界」は、現実の世界より時間の進み方が速い、と言うことを理解して下さい。ですから、目覚める前に夢の世界から出るには、自分を殺すか、外部から衝撃を与えてもらう(=「キック」と言います。)しか方法は無いのです。ですから、「夢の階層」を次の階層へと進む時は、チームの誰かが、「(現在入り込んでいる)夢の階層」に残留しなければならないのです。

また、夢の世界を創る際、記憶をもとに設計すると夢と現実の区別がつかなくなる危険があります。

(現実) ロサンゼルス行き飛行機の中(飛行機はサイトーが全部買い占める。)

1. (夢の第一階層での作戦) ロサンゼルスを舞台に、ロバートが父との関係を見つめなおすように誘惑し、遺言の存在を意識させる。 「残留」は調合師のユフス。

2. (夢の第2階層での作戦) とある高級ホテルを舞台に、ロバートに「自分で何かを作りたい」という意識を刷り込み、「遺言書」を狙う法律顧問のブラウニングにエクストラクト(=夢を見ている間に、その潜在意識に入り込みアイディアを抜取ること)を仕掛けるとロバートに思い込ませる。「残留」は、アーサー。

3. (夢の第3階層での作戦) 雪山にある病院を舞台に、ロバートを病床の父親と引き合わせ、「父のあとを継ぐのでなく、自分の道を進む」というアイディアを植えつける。「残留」は、イームス。

どうですか?付いて来られましたか?

夢と現実という二元世界をあれこれ楽しむ流儀は昔から人類に染みついています。仮想空間を作らないと誰も現実に耐えられないからでしょうか。小説、演劇、アートなどはそもそも必要に応じて作り出された仮想空間そのもので、人はそこに入り込み、別のリアルを模索するのであります。    

ドラッグによる脳内神経の化学反応で現実を攪拌する方法は、様々な映画作品に取り入れられています。また、{夢の中の夢}まではシェークスピアも用いましたが、この「インセプション」と言う作品のなかで、ロバートに{植え付け}任務を遂行する「仮想空間」は、『夢の中の夢の中の夢』という深層なのです。非常に、緻密なストーリー構成で、しかも、仮想空間・夢の3層構造は同時進行していきますので、スリリングでもあります。本当に、このようなアイディアに完敗であり、乾杯なのです。

どうぞ、是非、この数学的な緻密でスリリングなストーリー構成に、あなたも劇場で酔いしれてみて下さい。

本日は、見事な「ストーリー構成」の紹介が「酒の肴」となってしまいました。でも、このような「肴」も格別です。

では、また・・・。

0 件のコメント:

コメントを投稿