2010年5月18日火曜日

拝啓、アル・パチーノ様 (映画 『ボーダー (Righteous Kill)』を観て…)若い「共演者達」に伝えたいこと。そして、“プロ意識”・・・。

拝啓、アル・パチーノ様。

貴方は、現代映画界の最高の演技派俳優であるロバート・デ・ニーロと、様々な焦点から比較対象にされます。しかし貴方は、役作りの面において、外見から徹底的に役に対してアプローチするロバート・デ・ニーロのようなスタイルと、シナリオから役を追究し、特別なアプローチを避けるアンソニー・ホプキンスのような両極にあるスタイルを持ち合わせている、と言われております。一説によれば、貴方は、シナリオの1場面・1場面に対し、事前にそれぞれ数十パターンで演技できるように準備されるそうですね。物凄い“プロ意識”ですね。これなら監督も非常に創作活動が容易に進行するでしょう。「じゃ~、『場面A』行くよぉ~。少し楽しそうに演技してみて。・・・あっ、もう少し暗く演技できる。・・・ちょっと後半は明るく・・・。」などといった要望にも、貴方なら次々とパターン調整出来る訳ですよね。俳優が、「楽しそうに演技する『場面A』」を創作するのだって大変なことでしょう。それなのに、貴方は、常に『場面A』に対して数十パターン、『場面B』に対しても数十パターン……、と準備する訳です。“プロ意識”のレベルが非常に高いのです。小生、このエピソードを知ったとき、本当に貴方の素晴らしさを理解しました。

さて、世界中で現代最高の俳優と称えられる貴方とロバート・デ・ニーロ、おふたり合わせてアカデミー賞ノミネートは実に14回です。しかし傑出したクオリティを誇る数々の出演作品の中で、その名を並べたのはわずか2本です。そのうち、映画史に残る名作『ゴッドファーザーPARTII』では共演シーンが一つもなく、張り詰めた男のドラマで観る者を圧倒した『ヒート』でもほんの数分のみでありました。『ヒート』での共演から12年、演技力と存在感にさらに深みと凄みを増したあなた方2人の“本物の共演”が、2008年、作品『ボーダー (Righteous Kill)』で実現した訳です。

唯、この作品、日本において上演されたのは、つい最近のことなのです。しかも、都内であれば、僅か2つのスクリーンでの上映です。貴方を尊敬する小生からすれば、なぜもっと早く、もっと多くのスクリーンでこの作品が上映されないのか不思議であります。先週の日曜日に、小生、ようやくこの作品・『ボーダー』を劇場鑑賞しました。

監督は『アンカーウーマン』『北京のふたり』などの監督ジョン・アヴネット。ドラッグ・ディーラーのスパイダーには、ヒップ・ホップのスーパースター、50セントことカーティス・ジャクソン。仕事は完璧だが、ロバート・デ・ニーロが演ずるタークとの恋愛関係に問題を抱えた科学捜査官カレンには、『ナイト ミュージアム』のカーラ・グギーノ。普段からタークとそりが合わず、彼が真犯人だと疑う後輩の刑事2人には、『ハプニング』のジョン・レグイザモと、『シックス・センス』のドニー・ウォールバーグ。タークとルースターの上司には、舞台でも高く評価されているベテラン俳優、『ロミオ+ジュリエット』のブライアン・デネヒー。実力派キャストが集結した素敵な作品でした。

 ロバート・デ・ニーロと貴方が、ニューヨーク市警で20年以上コンビを組むタークとルースターを演じられます。二人は固い絆で結ばれていたという設定です。ある日、一度は逮捕されながら証拠不十分で社会に放たれた犯罪者を標的にした連続殺人事件が発生。その全ての証拠がタークの犯行を示していた……。しかし、本当の犯人は・・・?

 サスペンス作品として、ストーリーに対する評価はそれほど高くないのかもしれませんが、貴方とロバート・デ・ニーロの演技には、小生、魅せられました。今回、お二人は、性格が全く異なりながらも、固い絆で結ばれているという設定ですので、例えば、犯罪者を二人で協力して取り調べる場面などでは、お二人の味わい深い演技の共演が体現されていました。共演だからこそ、二人の間に生まれるテンション(緊張感)が「日常を共にするモノ達の絆」という概念を、魅力的に視覚化しています。嘗ての、ポールニューマンとロバートレッドフォードのコンビ、ダスティン・フォフマンとトム・クルーズのコンビ、などと肩を並べる素敵な共演だったと思います。

ところで、貴方・Alfredo James “Al” Pacinoは、 1940年4月25日 生まれですね。と、いうことは、今年70歳ですね。いゃぁ~、2年前にアメリカ公開されたこの作中の貴方、とてもとても70歳には見えません。

貴方は、シチリア移民の子として生まれるが、2歳の頃に両親が離婚し、少年時代は非常に貧しく不憫な生活を送った、と伺っております。若い頃はニューヨーク市内で自転車便やビルの清掃稼業、映画館のアルバイトなど様々な職業を渡り歩いていたそうですね。この頃に後々名コンビとして知られるジョン・カザールと親交を結んだとか・・・。26歳からリー・ストラスバーグ主宰のアクターズ・スタジオで演技を学んだが、オーディションに行くためのバス代もないほど貧しかった時もあったというのは本当ですか?しかし次第に、貴方は舞台で活躍するようになる。

映画スターとしては比較的小柄(167cm)というハンディキャップを抱えながらも、画面を所狭しと駆け回り、見る者を圧倒するエネルギッシュで強烈な演技と、悲壮感や哀愁の漂う演技という、両極端のスタイルを併せ持っているのが貴方の特徴かもしれません。それぞれのスタイルを象徴する作品として、前者は『スカーフェイス』、『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』、『ヒート』、後者は『ゴッドファーザー』、『フェイク』、『カリートの道』というところですか。貴方が、あるインタビューで語ったところによると、『セルピコ』は、モデルとなった実在の人物と3週間一緒に生活を共にしたり、『狼たちの午後』では、逆に脚本を徹底研究し、モデルとなった実在の人物とは一切面会せず、独自に役を作りあげたそうですね。ここでも、貴方の“プロ意識”には敬服致します。

最後になりますが、小生、あなたが仰られていた以下のメッセージ、印象に残っております。

貴方曰く、「若い俳優さんが、私と共演すると言うと、『大変緊張しました。・・・』なとど言われる。しかし、これだけは覚えておいて頂きたい。私が、若い俳優さんと共演する時には私だって緊張していると言うことを・・・。」。これですよ、これ。これこそが、自己顕示欲を捨てた本当の “プロ意識”なのですよ!

 Alfredo James “Al” Pacino様、これからも私達に“プロ意識”、教えて下さい。そして、ロバート・デ・ニーロとの共演、もし良かったら、もう一度見せて下さい。では、またスクリーンでお会いしましょう。

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