2010年4月26日月曜日

「数学の楽しみ方」 アダム・ファウアー著 : 『数学的にありえない』(上下巻)を読んで、思ったこと。

かなり前になりますが、ある「新聞記事」が、面白いことを教えてくれましたんや。
それは、インド人・数学の先生のコメントです。

 先生曰く、インドでは、14×17 を 10×(10+4+7)+4×7と考えるそうな!つまり、14×17=(10+4)×(10+7)と置き換えるのですなぁ。先生曰く、「これは数字の感性」だそうです。かっこええですなぁ!これなら、鉛筆を持てない時でも、『答え:238』と計算できるますわなぁ。

さて、本日はこうした「数学の楽しみ方」を我々に教えてくれるミステリー作品をご紹介します。その作品とは、アダム・ファウアー著 : 『数学的にありえない』(上下巻)です。本日の「酒の肴」、味わう前にまず、スコッチ・ストレートをぐぐっとあおると良いですよ。
では始めましょう。

上記作品は、既に16カ国で出版されたベストセラーである。我が国では、文芸春秋さんが出版しており、文庫化もされました。
推理作家協会の新会長・東野圭吾さんが、昨年度(平成21年)の江戸川乱歩賞によせて下記のコメントを綴られた。(注:江戸川乱歩賞・推理作家協会賞は、我が国で唯一、出版社が関与しないものである。)
「我々は、うまくまとまっている作品には興味がありません。それよりも何か、斬新な要素に惹かれます・・・・」じゃあ、「あまりまとまってはいないが、斬新さを感じる作品とはどんな作品?」と尋ねられたら・・・、小生ならば、この作品を推奨するであろう。

この作品は、ミステリーである。舞台はアメリカ、ひとりの若き数学者(現在難病を患い退職)が国家安全保障局から追われることになる。彼は、単なる数学者だが、異常な計算能力を持つ。まるで映画『レインマン』に登場する兄のように・・。彼は、特に運動能力や戦闘能力などに優れているわけではない。だが、数学的センス、つまり確率論を用いて、追っ手からの幾多の困難を乗り越えていくのである。そして最後は、無事に国家安全保障局から逃げ切る。途中、双子の兄やCIAの女性コマンダーなどを味方にする。

 この作品、ミステリーとしては、特に斬新な作品ではない。しかし、この作品、上記ストーリーのなかで読者に、ラプラスの『確率の分析的理論』を説明するのです。
もう少し判り易く説明すれば、ラプラスの唱える「決定論:あらゆる事象や出来事はすべて物理学的法則によって決定される」という概念を作品を通して証明しているのである。
主人公(逃げまくる数学者)曰く、「人間には宇宙の実相をすべて計測する能力が無い、ということが決定論を否定することにはならない。」と・・。そして、又曰く、「人間の行動を決定する要因は、100%の確実性ではなく、誤差を最小限にとどめようとする意思である。」・・。彼は、ここから「人間の行動は予知できる。」という結論を導き、彼の卓越した計算能力がこれを確実にしていく。

国家安全保障局は、彼の予知能力を決定分析するため彼を捕獲しようとする。だが、彼は上記の定理に基づき、苦難に出会うたび、様々なシミュレーションを行い、脱出ルートを確保するのである。脱出ルートとは、彼の場合、常に敵から逃れることではなく、時において、というか「誤差、もしくは、間違う可能性が他の事象より低い場合には」、わざと敵に捕まってしまうのである。

さてここで、主人公が、CIA女性コマンダーを味方にするときに、彼女を説得する場面を再現しよう。

・・・・・・・・・・・・・(再現始まり)・・・・・・・・・・・・・・・・
なぜ、予知が可能なのか・・。それでは以下の事象を考えてみよう。

(コインを取り出し)ここにあるコインを4回投げる。「そのとき表が出る確率は?(=何回、表が出るか?)」、と尋ねられたら、君は2回と答えるであろう。つまり、「2分の1 × 4 = 2」である。確率論的なアプローチ(確率論とは統計学を予言する方程式をつくる学問。)である。
 では、今度は統計学的なアプローチ(統計学:実際の出来事を計測する学問)を試みてみよう。
この事象の場合、全ての起こりうる事象を検証することが可能である。起こりえる事象は16通り。
このうち、表が0回の事象は1通り
        1回の事象は4通り
        2回の事象は6通り
        3回の事象は4通り
        4回の事象は1通り、である。

ここから判るように、「2回」という回答は、それが誤解答である率が、62.5%もある。つまり、丹念にコインを4回投げる実験を繰り返せば、「表が2回でること」は半分以下の場合である。(16通りのうちの6回)
それならば、なぜ、ヒトは「表は2回出る」と答えるのか?そうなのである、2回以外の回答では、誤解答となってしまう確率が、62.5%以上になってしまうからである。

0回・4回と答えれば、誤解答率:93.75%
1回・3回と答えれば、誤解答率:75%となる。

さぁ、もう判ったかなぁ。人間は誤差を最小限に留めるように行動するのである。予言の方程式の最終目標は、完璧に予言することではない。間違う可能性を最小限にすることである。だから、国家安全保障局から完璧に逃れられる方法を見つけるのでない。捕獲される確率が最小の事象を探し、行動しているのである。この理論を前提にすれば、予知は可能になる訳である。

・・・・・・・・・・・・・・(再現終わり)・・・・・・・・・・・・・・・

判りますかぁ?
この作品は、こうした調子で、ラプラスの理論の概念を読者に伝えていくのである。ストーリーは、あのダン・ブラウンの『ダヴィンチ・コード』のごとく、主人公が逃げ回る、ジェットコースター・ノベルである。読者は、ハラハラ・ドキドキしながら、先へ先へと作品を読む。
唯、主人公が脱出策を考える思考理論は、ラプラスの確率理論を用いており、そのことで読者は
ストーリーの他に、『ラプラスの理論の美学』を堪能できるのである。この意味において、この作品は斬新なのである!!まぁ~、この作品、表題も非常に魅惑的であるなぁ。

主人公が、追っ手から逃げ惑うときに、抜群の計算能力を持つ主人公は、上記の様な「計算」と「行動シミュレーション」を、コンピューターの力を借りることなく、瞬く間に完結するのである。そして、迫り来る危機を的確な判断で回避していくのである。各場面の主人公の判断を裏付ける「思考過程」が、上記の様なカタチで読者に紹介されるのである。主人公の「数学的な発想」は非常に魅力的であり、主人公の「数字の感性」に読者は魅了されるわけである。

数学を楽しみたくなった方、数字の感性を味わいたい方、この作品を一読されることをお薦めします。

本日の「酒の肴」は、ここまで・・・。如何でしたか?
ご堪能頂けましたら幸いです。では、また・・・・・・・。

0 件のコメント:

コメントを投稿